みことの日記

2015年8月長男、2017年9月次男 育児の記録

17 母乳のこと

 こぶたが生まれるまで、こんなにもおっぱいのことで悩むとは思わなかった。そりゃあ念入りに乳首マッサージをしたところで一滴もにじまない乳ではあったけれど、出産という大イベントを乗り越えたら、全てがうまくいくと思いこんでいたのだ。だから、けっこう悩んだしけっこう泣いた。その一部始終。

 

 出産後、病室に戻りしばらくしたところで、きてくれた助産師さんに「おっぱいあげてみましょうか」と言われた。
「はい、お願いします!」
 勢いよく返事をしたが、まず、乳首をくわえさせるのに一苦労。
「乳首で唇を刺激すると、お口をあけてくれるから、一番大きく広げたところで『あむっ』とくわえさせてね」
 言うは易し、行うは難し。何度やっても、乳首のさきっちょしか口に入らない。
「もっと大きく! 乳輪が隠れるくらい!」
 授乳クッションも使っていたけど、しだいに腕が疲れてくる。こぶたも「なにされてるんだ」って感じでしだいにフニフニうぎゃうぎゃ言い出す。
 ようやく数分後、乳首がぎゅぎゅっと吸われる感覚。
「あ、なんか、吸われてる感じします!」
「そうそう! 最初はあんまり出ないと思うけど、根気よく吸わせてね」
「わかりました!」

 

 しかしね。おっぱいの出ない乳首なんてのを、赤ん坊が機嫌よく吸ってくれるわけなどないのですよ。
 それからこぶたが泣くたびに格闘しました。たしかに、乳首で唇ツンツンをやると、お口はあけてくれる。でもなかなかアムッとはいかない。そのたびやり直す。こぶた嫌がる、泣き出す。ようやく乳輪が見えないくらいくわえる。ギュッとされる感覚、痛い。でも出ないから離される。……最初からもう一度。
「別の抱き方も試してみましょうか」
 横抱き、フットボール抱き、縦抱き。全部助産師さんがいるときにはうまく出来たのだけど、一人だと結局横抱きしかうまくいかなかった。
「赤ちゃんのからだをお母さんに密着させてね!」
 そう言われても、赤ん坊ってフニャンってしててうまいこといかないんですけど!

 

 まあなんとか試行錯誤を繰り返し、毎回ギュッと吸われている感覚があるところまでは持っていけていた。というか、そこまでいくのに疲れ果て、それで満足してしまっていた。
「紺さん。おっぱいの調子はどうですか?」
「毎回吸わせてはいるんですけど、なかなか出るようにならなくて……」
「ちょっと見てみましょうね」
 助産師さんが乳首をくいっと引っ張る。白い乳の滲み出す乳腺、左は二本、右は……ゼロ本。
「うーん、まだだねえ。まあ、母乳は退院までにポタッと出るようになるくらいで上出来だから! 軌道にのるのも一ヶ月後くらいだから気長にね」
「そうなんですか……」
「ところで、毎回赤ちゃんには何分くらい吸わせてますか?」
「ええと」
 思い返す。そもそも、何「分」とかいう単位だったっけ?
「んーと、長くて、一、二分でしょうか……?」
「え?」
 一、のところで助産師さんの顔がくもるのを確認し、あわてて二を足した。ところが。
「ちょっと、それは、短すぎますね……」
「え?」

 

 予想外の、展開。
「母乳で育てたいと思ってます?」
「はい……できれば……」
 そりゃ出るならあげたいです。
「それなら頑張らないと。今の感じじゃ、おっぱい出なくなっちゃうよ」
「はあ……」
「吸ってもらわないと、出るようにならないから。あげたかったら吸わせてください」
「あの、具体的にはどのくらい……」
「片乳最低五分。最低、でね」
「わかりました……」
 ぱたりと扉がしまって、助産師さんは出て行ってしまった。残された私とこぶたと、持ってきてもらったミルク。ちょっと考えこんでしまった。

 

 そっかあ。全然時間、足りなかったんだ。
 だからもう産後三日なのに、母乳出ないんだ。
 たしかに、初日は助産師さんと十分くらい頑張ったあとにようやく「うーん、十分間がんばったし、ミルクあげましょっか」って言ってもらえたけど、その後もずっとそうしなきゃいけなかったんだ。
 でも、けっこう頑張ってたのに……。「そんなんじゃ出なくなっちゃう」ってそんな悲しいこと……。

 

 私の腕の中でお腹をすかせたこぶたがフニャフニャ泣き出した。「ごめんね、ごめんね」謝りながらミルクを50ミリリットル飲ませた。あっという間にごくごく音を立てておいしそうに飲み干した。ミルクならこんなに喜んでくれるのに……。たぶん、ちょっと、泣いた。
 その次の授乳から、気持ちを入れ替えた。
 心を鬼にして時計とにらめっこ。こぶたが泣いたら、おっぱいを必ず「ぎゅっとする感覚で」五分ずつ吸わせる。まったく出ないから、こぶたは二十分近くフガフガ泣き続けた。全力で反り返るので、頭を押さえつけて何とかくわえさせた。手首が痛くなった。三時間おきにミルクを足したが、泣きながらあっという間に飲み干していた。ごくごく必死な音をきくと、涙が出た。
 夕方五時から、こぶたは毎時間ごとに泣いたので、それを夜中の三時まで繰り返した。そこでようやく、泣く間隔が二時間おきになった。少しだけ私も眠った。

 

 翌朝。
 おそるおそる乳首をつまんでみた。まずは左。最初、前から出ていた二カ所から乳がにじむ。そして、もうひとつまみすると、さらに二カ所が白くにじんだ。
「開いた……」
 次に右。同じ要領でつまむ。こちらは今まで一度も出たことがない。ところが、右も二カ所から乳がにじんできた。……ついでに涙もにじんだ。
 昨日と違う助産師さんがやってきた。授乳やおむつ替えの記録に目を通す。
「紺さん、おっぱいどうですかー? あ、夜けっこうがんばったんですね!」
「昨日、もっと頑張らないとって言われて……あ、初めて右からも出るようになりました!」
「ほんと! よかったですねー、どれどれ……」
 やっとまともに、おっぱいが出るようになった。
 これでこぶたに悲しい、ひもじい思いをさせないですむ。お腹のすいたところを、出もしない乳首を吸わせないですむ。これからは、ミルクを飲むときみたいにおいしそうにおっぱいをくわえてくれるんだ……

 

 そう信じていた時代が私にもありました!
 ……実際はね。ひどいものですよ。
 前回の授乳からちょうどいい時間がたつ。お腹がすいたとこぶたも泣く。よしおっぱいだ! と意気込む私。授乳クッションを膝の上におき「よしよし泣くな、おっぱいだぞほれほれ」とこぶたを寝かせる。
 ところが、吸わない。
 唇でつんつんしても口をあけない。何度かやってみると泣き出す。泣いた口に乳首をねじこんでもくわえてくれない。そして力のかぎりのエビ反り。
「おっぱい出るようになったよ、嫌じゃないよ、吸ってごらん」
 話しかけても泣き声にかきけされる。どうしたものかと途方にくれる。そして泣きたくなる。せっかく出るようになったのに。こぶたが頑張ったから、出るようになったのに……。

 

 考えてみれば当たり前の話かもしれない。お腹がすいているところに、空っぽの乳首を吸えと無理強いされる。しかも何十回も。すぐ目の前にはおいしいミルクの瓶が控えているのに。
 そんなことを繰り返されたら、おっぱいが嫌になってしまうだろう。ようやく疲れて眠りに落ちたときに「二度とあのおっぱいとかいうやつなど吸ってやるものか」と決意していたとしても、なんら不思議ではない。
 でも、だとしたらお願い、その認識を改めて!
 ……結局二日後の退院まで悪戦苦闘し続け、「乳頭混乱」「おっぱい 吸わない」その他もろもろ検索し続け、ようやく退院間際には一回の授乳につき18グラム飲んでくれるまでに成長した(授乳前後に体重を計るやり方で計測した)。
 相変わらず何度も乳首を離され、そのたび渾身の力で押し返すという繰り返しだったけれど、授乳ごとに吸ってくれる時間は増え、なんとかなりそうな気分になってきていた。

 

「うーん、おっぱい出るようになったけど、いまミルク一日350ミリリットル足して体重増加がちょうどいいくらいだからね。一ヶ月健診までは混合でいくこと」
 そう宣言されて退院した私とこぶただったが、目標の健診ではなんと一日68グラム増という成績を叩き出し、
「うーん……順調なのはいいんだけど、ミルク減らしていいかもしれないですね」
 と先生に言わしめた。いやあ、通りで重いと思った! 元がもとだから、この時点で体重5.5キログラム。……ほんとに一ヶ月健診?

 

 その後はミルクを夜だけにし、それでも体重が増えすぎるので夜もなくそうかと目論んでいるところ。
 退院直後は胸が張りすぎて痛くなったり、片乳をあげているときに反対から乳が垂れ流しになったり、いくらあげても足りないと言われたりと困ったこともあったが、今はおおむね順調。
 なんだかんだで軌道にのるまでに、本当に一ヶ月ちょいかかったな……というところである。

 

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哺乳瓶は病院で使っていた「母乳実感」のガラス製。混合ならまずは160mlだけで十分だと思う。入院中でネットで注文した2本を使いまわしている。

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粉ミルクは退院以来ずっと「はいはい」。割安だし、便秘知らず。あとなめると美味しい。

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消毒は電子レンジで。これ、丸いからどんなレンジでも回るし、哺乳瓶の消毒期間終わったら肉まん蒸せるらしいし、良かった。

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病院でもらった授乳クッション愛用中。しょっちゅう汚れるのでカバーの洗い替えがあったほうがいいかも。

 

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