みことの日記

2015年8月長男、2017年9月次男 育児の記録

9 恐怖の身体変化

 からだの中にぎゅうぎゅうに膨れた2リットルペットボトルより大きなものを宿そうというのだから、妊婦の身体というのは、十ヶ月間で驚くほど変化する。
 私ももちろん、例外にあらず。ただただお腹が大きくなるというだけでなく、それに付随して、いろんな変化が起きたりトラブルが発生したりした。思い出せるかぎり、書いていきたい。

 

 まず、散歩すると手がパンパンに腫れるようになった。むくみだと思うのだが、指先に血液がたまって痛い。そうなると、結婚指輪も外れない。万が一帝王切開になり抜けなくなって切断されてしまったら悲しすぎる、とずいぶん早々に外してしまった。
 病院で先生に聞いてみると、もうそれはしょうがないね、とのこと。
「防ぐ方法ってないんですか?」
「心臓より手をあげること、かな? 胸の前で手を組んで歩きなさいね」
 試しにやってみたが、散歩の格好としてはあやしすぎる。だんなにも「変だよ」と一瞬でダメ出しをくらってしまった。しかたがないので、手が痛いいたいとぼやきながら、川沿いをてくてく散歩した。

 

 むくみといえば、足のほうも後期にはずいぶんむくむようになってしまった。
 とくに産休に入ってからは、一日座って過ごすことも多く、そうすると靴をはくたびに同じ靴なのにどんどんキツくなっていく。生まれて初めてヨーロッパまで長距離路線の飛行機に乗ったときのことを思い出した。あのときも足がパンッパンに腫れ上がり、触っても自分のものではないような感覚で、しびれて触感のなくなった足を面白がってつつくみたいに「変なのー!」とやっていた。
 そのときは数日で治まったが、今回は産まれるまで毎日だ。……いや、産まれても終わらないらしい。
「私の知り合いで、産んでも足の浮腫がいっこうに良くならなくて、退院用に持ってきた靴が履けずに病院の内履き用のサンダルで家に帰ったって人がいましたよ……!」マタニティーヨガで一緒になった妊婦さんが教えてくれた話である。おそろしいのう。のうのう。
 おそろしさのあまり、一日中ルイボスティーを飲んだり、トマトときゅうりを山ほど食べたりして何とか解消につとめた。ドラッグストアに売っている着圧ソックスも、寝るときに履いているとけっこう効いた。
 それでも万全ではなくて、夜になると象さんみたいなあんよが待ち構えていて、だんなに「おれより太い!」と興味深げに毎日つっつかれたりした。悲しかった。

 

 あんまり人に言えない話もすると、手足だけじゃなくて、股もむくんだ。いわゆる外陰部、というところなのだろうか。
 トイレに行くと痛くてふんばりづらい、という日は臨月近くなるとしょっちゅうあった。お風呂などで触ってみると、ちょっと尋常じゃないくらい膨れ上がっていて、「まじでこれ大丈夫? ってか私?」と心配になるほどであった。
 心配ごとが起こるたびにネットで調べてはみるのだが、だいたいがぜんぶ、「妊婦にありがちです!」でジ・エンドだった。妊婦とはかくも、かくのごとし、な存在なのだ。

 

 妊娠するとバストアップするというのは定説だが、私は少なくとも臨月までいっさい胸のサイズが変わらなかった。しかしかわりに、おかしなものができた。
 わきの下の胸寄りのぷくっと膨れた箇所に、茶色い突起物。直径は二、三ミリで真ん中に針でつついたような陥没。左右にできたが、どう考えても初対面。調べてわかった。副乳だった。
 多くの哺乳類がお乳をいくつも持っているように、人間のなかにもその名残がある人は少なくないらしい。普段から見える人もいれば、私のように妊娠がきっかけで気づく人も多数。見た目以上の問題はないことも多いということだが、人によっては副乳までもが母乳を生成しようと、腫れたり熱を持ったり、痛みを伴ったりする。
「見て見てー」
「ん?……うえっ、なにそれ」
 だんなには案の定、驚かれた。「妊娠ってこわい……」そんなことを呟いてもいた。
 副乳を痛くしないためには、母乳生成の役目を思い出さないでいただくよう(思い出されても出口がなくて詰まっちゃうから)、無用な刺激をせず放っておくのが一番とのこと。
 今のところ大人しくしてくれているので、産まれてからも何も起こらないよう祈るばかりだ。

 

 そして最後に、最大の敵。何かって?……妊娠線である。
 最初はもちろん、気配すらなかった。気休めのクリームを塗り、たまにオイルを塗り、でも全く予兆がなかったので、こんなものかな? と思っていた。
「私も全然だったわよ。双子うんだときも、よくこんなにお腹キレイですね! ってほめられたんだから」
 以上、母親の弁だ。ということもあり、私はまったくもって油断していた。
 しかし、世の中そんなにあまくないのである。あまり日をおかずして、私はついに発見してしまった。
 ……妊娠線を。……だんなの、腹に。

 

 正確なことをいえば、前から存在には気づいていた。お腹だけではなく、腕などにも、白いピリピリした線が何本かあったのだ。しかし、当時は妊娠線なんてものの存在を知らなかったため、あざとか蒙古斑とかそれ系の何かかな? と特に気にしていなかった。
 しかし気づいてしまえば、それはまぎれもなく妊娠線、いや、妊娠線と同じ仕組みで身体に現れた皮膚割れ線そのものだった。
「ねえねえ」
「ん?」
「これってさあ……妊娠線?」
「は?」
 だんなは露骨に嫌そうな顔をして「おれは妊娠なんてしたことがないぞ」と宣言した。言われずとも知っている。
「でもね、妊娠線って、皮膚が急激に伸びたり縮んだりするとできるんだって。あなた、就職してから十キロ単位で増減繰り返してたでしょ。これ、同じ種類のやつだよ」
「……ふーん」
「にんしんせんにんしんせーん」
「やめたまえ」

 

 だんなをからかったツケは早々にやってきた。
 臨月に入って、実家に帰ったときのこと。自宅にはない、大き目の鏡で腹囲100センチを超えた腹を眺めていたら、なんとなくの違和感。
「これ……ズボンのあとじゃないよね……?」
 思えば数日前から、お腹がかゆくてしかたない、という予兆はあったのだ。ついに、乾ききった赤土の大地が水を欲してピリピリと断裂を引き起こしたみたいに、赤ぐろいミミズがのたうったみたいな筋がへその周りに何本かできてしまった。角度を変えてみてみると、のびきった皮膚がぴかぴかと光っていた。

 

 発見した当初は、「やっちゃった……」と心底へこんだ。もっとまじめにクリームを塗るべきだった、と心から反省した。これ以上拡大しないように、こぶたよ早いとこ出てこい! とお腹をぽんぽん叩いて急かした。
 しかし、できてからは速いのだ。もう、日に日に本数は増えてくし、領土は拡大してくし、サイズも変わってない胸にまで何本かできてるし。
 ……のあたりで、あっさり諦めがついた。というか開き直った。
 私はそういう体質だったんだ! 母さんには悲しいかな似なかったのだ! っていうか妊娠線ができて何か困ることでも? ビキニなんか人生で一度も着たことないわ!
 あんまり悲しむくらいなら、産んだあとにきちんと体操とか引締めとかやって、せめてタルンタルンのお腹に悲しくならないようにしよう、と気持ちを切り替えた。きっと妊娠線のあともマシになってくれるに違いない。
 こんなに伸びてしまった皮膚が、どこまで縮んで馴染んでくれるのか不安ではあるが、とりあえず、今から産後のトレーニング検索に余念がなかったりする。

 

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私が買った着圧ソックス。暑いし、履くの大変だろうと思って膝丈(これは正解)。

5本指タイプにしたけど、ずっと指開かれてると痛くなってくるので、こっちはやめたほうがよかったかも……と思った。

 

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