みことの日記

2015年8月長男、2017年9月次男 育児の記録

4 必需品

・マスク
 妊娠したのが冬だったのもあるけれど、べつに風邪予防というわけでもなく、妊娠四ヶ月くらいまでマスクが手放せなかった。つわりでありとあらゆるニオイに拒否反応が出ていたのである。
 まず、排気ガス。鼻腔をくすぐるあの香りはもろに胃袋を刺激する。主に、逆流の方向へ。すぐ近くを車が通り過ぎるときは、決まって息を止めていた。すると今度は酸素が足りずに気持ち悪くなった。
 また、タバコの煙も同じたぐい。副流煙が健康に悪い、とかそういうレベルじゃなく「私の吐瀉物にまみれたくなかったら歩きタバコやめて!」と、声に出せない悲痛な叫び。
 飲食店の換気扇から流れ出る食べ物のニオイもよくなかった。辛そうなもの、すっぱそうなもの、甘そうなもの。種類は問わず、何をかいでも気持ち悪い。
 そんなわけで、最寄り駅の周辺が一番のホットスポットだった。仕事にいくかぎり、毎日通らざるをえない。マスクを装着し、メガネをくもらせ、おまけに息まで止めながら、一日二回、修行僧のような面もちで通り過ぎるつらいつらい日々だった。

 

エビオス錠、グリーンダカラ
 エビオス錠は前述のとおり。つわりが悪化したあと「もしかして……エビオス?」と疑い服用を再開すると、火のついたフライパンにこぼれた水がじゅわじゅわ蒸発していくみたいに、つわりが軽くなっていくのを感じた。
 もうひとつ、一番の窮地を救ってくれたのが、グリーンダカラ。どこで読んだのだかは忘れたけれど、「つわりでも水分はとりたまえ」というのが一般的な常識としてあるなかで、さしあたり水は不味い、吐きはしないがおいしくない、麦茶はのみたくない、飲めるものがない……と悩んだあげくたどりついたのがグリーンダカラだった。
 とりあえず、そのままだと味が濃すぎるので、水で割って飲んでいた。朝から晩まで、というか寝ている最中も目が覚めるたびに、職場にも水割り(グリーンダカラ1:水2~3くらい)を持参して、ずっと飲んでいた。
 身体に良かったのか、赤ちゃんに悪い成分は入ってなかったのか、よくわからんところもあるけれど、おかげで私は干からびることなく、妊娠初期を乗り切れたのだった。

 

・妊婦マーク
 言わずもがな、「おなかにあかちゃんがいます」という例のピンクのやつ。母子手帳を受け取りに区役所に行ったとき、もらったセットの中に入っていた。
 実際付けるまでは若干の逡巡があった。「妊婦マーク付けてるからってエラい顔すんな」とか、「マークを付けてたらわざとぶつかられた、蹴られた」とか、そういうあれやこれやのおそろしい話ばかり聞いていたからだ。
 実際は、かなりこれに助けられた。中期まではほんとに、お腹も出ていないから見た目では妊婦だと全くわからない。朝の通勤時間帯は、そもそも座っている人は寝ているのでマークに気づいてもらえることもほとんどなかったけれど、たまに席を譲ってもらえると、とてもありがたかったし嬉しかった。
 お腹が出始めてからも、電車に乗り込むと、私の体型をちら見し、「ひょっとして……」という顔をしてカバンのほうに視線をやり、やっぱりそうだ、と「お席どうぞ」と言われる体験を何度もした。
 自分が逆の立場でもそうだけれど、ちょっとお腹がでてる人と妊婦って、本当に見分けがつかない。人をもやもやした気持ちにさせるくらいならマークを付けてたほうがいいんだな、と感じた。
 あと、自分が席に座っているときの免罪符にもしていた。譲ってもらった席にせよ、空いてたから座った席にせよ、なんだか妊娠前よりものすごく「すいませんただの妊婦なのに座っててすいません……」という気分にさせられるのだ。なぜかは分からなかったけれど。
 そんなとき、マークを付けていると少しだけほっとした。みんなちょっとだけ、しょうがないって思ってくれるよね、みたいな。別に席なんて誰が座ってもいいし、もししんどそうな人が乗ってきたら代わればいいだけなのだけど。

 

・うすーいコーヒー
 基本的に、妊婦はカフェインを摂ってはいけないと言われている。みんな、やれ「タンポポコーヒー」だとか「ルイボスティー」だとか、あれやこれやを駆使してコーヒー、紅茶を避けているらしい。
 まあ、妊娠にまつわるその他のもろもろと同様、カフェインについても諸説があって、私が読んだ中では「食後の一杯くらいは問題ないでしょう」というのが大勢を占めていたこともあり、私はあまりカフェインについては手厳しくいかなかった。もともと、コーヒーも紅茶も日本茶も大好きで、ストレスがたまると思ったので。
 そんなわけで、起床直後、あるいは午後の昼下がり、おもには職場で、頭痛がひどくなると、お湯にティースプーンのさきっちょくらいだけ溶かしたゴールドブレンドを飲んでいた。妊娠前は平気で山盛り二杯くらい入れていたから、数分の一の濃さだろう。
 体質的にかどうかわからないが、頭痛には鎮痛剤のカロナールよりよっぽどコーヒーのほうが効いた。カロナールなら飲んでもいいと言われていたけど、あまり飲まないほうがよいだろうなと思ったこともあり、いつもうすーいコーヒーで頭痛を逃がしていた。

 

ノンアルコールビール
 また飲み物のはなし。私の家系は飲んべえ揃いで、父も母もお酒をよく飲むし、母なんて「いやーお酒なんて普通に飲んでたわよ。適度に飲んでなかったら、あんたたち賢くなりすぎて困ったかもよ。ちょうどよかったよかった」という具合なほどである。
 家族だけでもそうなので、たとえば親類一同が集まると、そりゃもう祭りじゃ祭りじゃ! って感じ。なので、私も、これまでノンアルコールビールなんてものは口にしたことがなかった。
 とはいえ、私自身は「妊娠したからアルコール禁止ねー」と言われても、そんなにつらくは感じなかった。だんなはあまり飲まないし、職場の飲み会は遠慮するようにしてたし(毎日一時間早退させてもらっていたので、飲み会の時間を待つのがめんどくさかったというのが大きい)、家では太るしお金がかかるから飲む習慣がなかったので。……しかし、つわりが終わって食欲がもどってくると、なんだか、無性にビールが飲みたいんですよね。あの鼻にぬける草っぽさ!
 だんなと二人でひさしぶりの温泉旅行に行ったときに、なんとなく夕食時に頼んだのが最初だったと思う。あれ、意外とおいしいじゃん? と思い、おまけに炭酸でお腹がふくれるせいか、妊婦の爆撃のような食欲を抑えてくれることもあって、妊娠中期以降は非常に重宝した。
 そんな話を職場のリーダーのゆうこさんにしていると、彼女もビールがとても飲みたくなった、という話をしてくれた。
「みんなとっても美味しそうに、というか気持ちよさそうに飲むでしょ? あれがすごいうらやましくってねー! 普段お酒なんて飲めないのに、おかしなもんね」

 

・さらし
 悪夢のようなつわりも終わり、つかの間の安息の日々。あんがい長く続かなかったのは、みるみるお腹が膨れてきたからだ。
 最初は、とにかく締め付けると気持ち悪いので、タイツを履くにも妊婦用、ジーンズを履くにも妊婦用(全部おさがりでもらえた。ありがたい話だ)といった具合だったのだが、しだいにそれだけでは自重を支えられなくなってきた。
 7ヶ月頃からだったと思う。お腹の重さにお腹自身が引っ張られて、とにかく痛い。仕事に行く朝はよいが、昼にはもう痛い。あとひとふんばりと思って終業まで耐えると、自分でお腹を押さえながらでないと家まで帰れない。なんだか医者で申告したら怒られそうな調子だが、そんな日がしばし続いた。
 これじゃあいかんと方策を考え、思いついたのが、母が前にくれた「さらし」。すでに半分の17cm幅に裂いてあるやつで、長さはたぶん10メートル? 収納するためにぐるぐる巻くと、直径が10cm弱になる。
「これ、どうしたの?」
「膝痛めたときに巻いてたのよー。もう使わないからあげるわ」
 もらったときはまだ必要なかったけれど、今こそかの君の出番ではないのか!?
 ……というわけで研究しました。ネットで巻き方調べました。最初は全然うまくいかなかった。緩すぎて、一日過ごす間に落ちてきたりして。しかし、「でっぱりの下部を重点的に支える」、「お腹をひっこめてから巻き始める」というコツを体得してからは、快適になった。一日仕事してても全然お腹が痛くならない!
 妊娠帯とかベルトとか、たぶんグッズは色々あると思うが、私はさらしが一番使いやすかった。洗濯機で洗えるから夏でも清潔だし適当に干してもすぐ乾くし。
 暑かったけど。夏になると、死にそうにぽかぽかしたけど。背に腹はかえられない、いや、腹に背はかえられない、というやつでした。

 

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使ってたさらしはたぶんこんなの。細長く二分割に割かれてましたが。

これをそのまま使うなら、二つ折りにするのかな?